「れんか?」
「そう。ハスに中華のカで蓮華。」

 女の子の名は蓮華(れんか)というらしい。
 容姿に似合うとてもかわいらしい名前だ。
 蓮華の運んできた温かい雑炊を食べている間に軽く自己紹介をする。
 しかし、やはりというか、フルネームはお互いに教えなかった。
 もしかしたら、『蓮華』というのも本当の名前ではないかもしれない。
 彼女も信用できる相手とも言い切れないか。

 それにしても、蓮華はとても可愛らしい。
 年は自分と同じくらいだろう。
 今はベッドに腰掛けているからわかりづらいが、背は女の子にしては高いほうなんじゃないかと思う。
 立ち上がれば、厚底の靴を履いている分俺より高いかもしれない。
 綺麗に染められた金髪はポニーテールにされ、赤いシュシュがよく映える。
 瞳はカラコンなのか、深いグリーンだ。
 ただ、少し気になるのは…。

「ねえ、そんなに見つめられるとさすがに照れるんだけど。」
「え、あ、ごめん!」

 見過ぎていたらしい。
 蓮華は特に気にする風でもなく笑顔で、会話が途切れない程度に話を続けてくれる。
 自分は人見知りで、あまり人と話すのは得意ではないが、蓮華との話は途切れることもなく楽しく続く。
 もしかしたら、この子は自分の運命の人なのかもしれない―――…。
 この短時間でそんな幻想を抱くほど、蓮華との会話は楽しかった。




「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。湊さんはまだ帰らないと思うから、何かあったらそこのインターホンで呼んで。内線で俺の名前言ってくれればすぐに来るからさ。」
「うん、わかった。ありがとう。」

 雑炊も食べ終わって、蓮華とゆったりと会話を楽しんでいたが、もう行ってしまうらしい。
 と言っても、結構長い時間話し相手になってくれていたんだろうと思う。
 ジョンはとっくに食べ終わって、俺のいるベッドの足元で心地よさそうに眠っている。

「雑炊おいしかったよ。ありがとう。」
「それはよかった。料理長に伝えとくよ。」
「え、料理長?」

 てっきり蓮華が作ったのかと思っていた。
 それに、料理長ってなんだ。やはり金持ちになると一家に一人お抱えのシェフでもいるのだろうか。
 俺があまりにもきょとんとしているのが面白かったのか、にこにこと笑いながら話し続ける。

「ああ、俺が作ったと思ってたの?俺は料理できないよ。それともうひとつ。」

 蓮華は立ち上がり、食べ終わった食器をジョンのエサ入れもまとめて部屋を出る準備をする。

 ここにきて、最初に感じていた違和感がまた浮かび上がってきた。
 それは、可愛らしい彼女に似合わない『俺』という1人称。
 落ち着きのあるハスキーボイスから出るその単語は、声だけ聴いていたら、まるで少年のようだ。
 そして、男としてはつい目がいってしまったのだが、フリルで誤魔化そうとしているのが明らかにわかる、まっ平らな胸元。

 彼女は、扉を開けた状態で立ち止まり、言い放った。

「俺は男だよ。じゃあね、おやすみアキラ。」 

 言葉が出なかった。
 彼女は―――…いや、蓮華は今日一番の笑顔で振り返りけらけらと笑いながら、俺に衝撃と納得と、この場に対する不信感を残して去っていった。

 


 

 

 

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