アキラが眼を覚ますと、知らない部屋の大きなベッドに寝かされていた。
どこかのホテルのスイートルームか何かだろうか。
身体を起こしてみるが頭は重く、体中が痛くてだるい。
服がない。大きな窓から差し込む光は紅くまぶしい。夕方か、明け方だろうか。
陽に照らされたたくさんのビルが下の方にたくさん見えた。
状況を把握しようと記憶をたどると、鳥肌と吐き気が襲ってきた。

「あれ、目ぇ覚ましたんだね。」

声とともに開けられたドアにはホストみたいなスーツを着た男と大きな白い犬がいた。

「…グレートピレニーズ?」
「おっよくわかったねぇ。犬が好きなのかな。」

そういえば、大きな犬の鳴き声を聞いた気がする。そのあと、誰か来たような・・・
ダメだ思い出せない。

「あなたは誰ですか?ここはどこ?」
「俺は柳生  湊(りゅうせい みなと)。ここは俺の部屋だよ。」

聞いといてなんだけれど、うそ臭いなまえだ。

「それ、源氏名?」
「あはは、よくわかったねぇ」
「・・・。」

怪しすぎる。助けてくれたのかとも思ったが、違うのか。

「君の名前も教えてくれる?」
「・・・アキラ。」

フルネームを教えるのは無用心な気がしたから、名前だけ答えた。
向こうだって源氏名で名乗ったのだから、本名をフルネームで教えてやる必要はないだろう。

「よろしく、アキラ。あ、横に置いてある水、好きに飲んでね」
「・・・はい。」
「俺は出かけるから、好きにくつろいでて。お風呂も勝手に使っていいからね。」
「・・・。」

無用心すぎるだろうそれ。親切すぎる。
罠だったりするのだろうか。

「あ、ジョンは置いて行くから遊んでやって。君にすっごい懐いてるんだ。」
「はあ。」

犬のリードをはずしてそう言うと、男は・・・湊さんはどこかへ行ってしまった。
残されたジョンはじっとこちらを見ている。

「お前、ジョンって言うの?」

自分の名前に反応したのか、ジョンはオレに思いっきり飛び掛ってきた。

「うわっちょ、待ってっ!」

顔をべろんべろんに舐められる。仕返しに腕を伸ばして全身をわしゃわしゃ撫でてやった。
尻尾をぶんぶん振りながら、身体をくっつけてくる。

「なんでそんなに俺に懐いてんの?」

ジョンは一度離れると、おもちゃを持ってきて遊びの要求をしてきた。





 

 

 

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