シャワーを浴びながら秋人に付けられたマークの位置を確認する。左胸のやや上の方。服を来ていれば、見えない位置だろう。 これなら暁斗にバレる心配はいらない。 風呂から出た陽斗は、着替えのシャツがないことに気が付いた。準備したつもりで忘れてしまっていたようだ。男の自分が上半身裸で家の中をうろつくことぐらい恥ずかしくはないのだが、家族の誰かに秋人に付けられた痕を見られるのは何としても避けたい。 まだだれも帰ってきていないであろうリビングを素通りして、足早に自室へと向かった。階段を登る音も大きくなる。 自室のドアを勢いよく開けると 「あ、ハルただいまーって服着ないで慌ててどうしたの?」 いつの間にか帰ってきていた暁斗がベッドに腰かけた状態で、着替えている途中なのか俺と同じように上半身裸で部屋にいた。俺は慌てて首にかけていたタオルの位置を確認する。丁度痕の上にタオルがかかっているから、暁斗にはばれなかったようだ。 「ハル?タオルがどうかした?」 「なんでもないよ。服、忘れちゃって寒いから早歩きになっちゃった。」 適当に言い訳をしたが、暁斗は怪訝そうに近づいてきた。あまり近づかれるとバレる気がして気まずい。 「寒いって…今日あついよ。ハル風邪引いたんじゃないの?」 そう言いながら額をコツンと合わせてきた。今度は、先程とは違う理由で気まずい。 近づいてくる顔。息がかかり、少しすれば触れそうな唇。目をそらせば、先程まで部活で汗を流していたであろう程良く筋肉の付いた暁斗の身体が目に入る。 俺の気持ちも知らないで、こいつはこういうことをしてくる。 「んー、熱はなさそうだけど…」 「大丈夫だよ。服着るから一回離れて。」 「えーもう離れちゃうの?」 少し冷たい言い方になってしまったかもしれない。暁斗は顔をしかめたが、文句を言いながらも一応離れてくれた。心配なのか、俺の言動に不信感を持っているのか、目は離してくれなかったが。 このまま暁斗の方を向いていたら、着替えているうちにキスマークがみられてしまうかもしれない。そう思い、暁斗に背中を向けた。 しかし、それがいけなかった。 まだこちらを見ていた暁斗に背中を思いっきり掴まれた。 「痛った!なにすんだよ!」 「…何これ。」 「…?」 背中に掛けられた左手に、爪を立てるんじゃないかと思うほどに力を込められる。片手は暁斗が気になっているのであろう右の肩甲骨あたりをぐりぐりと擦られる。 暁斗は何を見ているのだろうか。力の込められた指が食い込んで痛い。 「アキ、俺の背中になんかある?」 「何これ。」 暁斗からは同じ言葉しか出て来ない。 「アキ、痛いから。なんか付いてるの?取れそう?」 「…誰に付けさせたの?」 会話が噛み合わない。けれど、なんとなくわかった気がする。 少し後ろを向くと暁斗と目は合わないものの、睨みつけられているのが伝わってきた。 「ここ、赤くなってる。腫れてないから虫刺されとかって誤魔化しはきかないよ?」 前だけではなかったのだ。秋人に付けられたキスマークは。きっと、背中の暁斗の右手が触れているあたりにも秋人の残した痕があったのだろう。 暁斗の言う通り、もう誤魔化しは効かないだろう。 秋人がいつの間に背中にまで痕をつけていたのかわからないが、付けるなと言っていたのに。 知られたくなかったのに。 怒るのもわかっていたのに。 まさかこんな形でバレるとは。 暁斗が怒るのは、わかっていた だって、双子だから 理由なんて、それだけだった なぜ、暁斗が怒るのか そんなことは全く考えなかった わかっていたのは、『暁斗が怒る』ということだけだったんだ
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