「んっ・・・あぁアキっ」
「ん・・・ここがいいの?」
「あぁん、まっ・・・って、ひぁっ」

 赤と黒で彩られた薄暗い部屋に、ひとつの長く伸びた影がうごく。
 グチュグチュっという濡れた音と掠れた小声がコンクリート製の建物に弱く響く。外からはサッカー部の顧問の怒声が聞えてきた。

「かわいい・・・」
「あっ・・・って、こら!痕つけないでって言ったじゃん!」

 慌てて身体を起こす少年にかぶさっていた男はゴメンゴメンと悪びれる様子もなく軽く謝った。

「あ~、もう。思いっきり赤くなってるし・・・」
「色が白いから目立つね。でも、脱がなきゃ見えないでしょ。」
「『アキ』の前で脱げないじゃん」

 左胸に赤い痕をつけられた陽斗(はると)は乱れた制服を直しながら目の前の相手を睨みつけた。
 睨みつけられた秋人(あきひと)はまったく気にしていないようだ。

「好きなだけ脱いでくれてかまわないけど?」
「先輩じゃなくて、暁斗(あきと)の方!あいつ、結構目敏いんだ」

 陽斗には双子の弟、暁斗がいる。

「別に見られたって何ともないんじゃないか?ただの双子だろ。」
「う~、そうだけど」
「彼女でもないのにキスマークぐらいで怒ったりは・・・」
「怒るよ。アキは。」

 陽斗は断言する。弟の考えや行動は何でもわかるから、と。
 秋人には全くわからない、未知の領域。
 生まれたときから、いやその前からずっと一緒にいる存在。特別なのだろう、何よりも。

「まあ双子って言っても着替えもお風呂まで一緒ってわけじゃないでしょ。」
「うん」
「なら、平気だって。」

 確かにその通りだ。納得した陽斗は暁斗に見つかったときになんて言い訳をするか考えるのを止め、 荷物をまとめて秋人と二人で生徒会室を出た。
 しっかりと鍵を閉めたことを確認して、職員室へ鍵を戻して家路へ付いた。


 

 

 

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