meet again 目覚めると、やはりというか当たり前だが、まだこの「湊さんの部屋」にいた。 目覚めてすぐだと、体を起こしたくない。低血圧というものなのか、ただの怠惰かわからないがいつもそうだ。首だけを動かして、当たりを見渡す。 昨夜は暗闇に無数の明かりがきらめく夜景を映していた窓には今、青い空と都会の街並みが見える。 昨日一日寝ていたはずなのに、また朝まで熟睡していたようだ。…知らない場所で熟睡できる自分の神経の太さに少し呆れた。 でも、きっと一人だったらここまでリラックスしていないだろう。きっと、隣にジョンがいたからだ。大きい体にもふもふの毛並は、寄り添ってくれるととても心地よかった。 しかし、隣にいたはずのジョンが見当たらないことに気が付いた。 「ジョン?どこ?」 居ない。部屋に完全に一人になっていることに気が付いてしまった。なんとなく不安になる。ジョンがいないだけでこんなにも不安になるとは思わなかった。 見知らぬベッドにひとりで横になっているのも嫌になり、重たい身体を起こした。 とりあえず顔を洗おう。そう思い洗面台のあるバスルームへ行こうとすると、ソファの前のローテーブルにメモ用紙が置いてあるのに気が付いた。昨日はこんなもの、なかったはずだ。 『おはよう。 ジョンと散歩に行くから、 起きたらテレビでも観て待ってて。 湊』 メモにはそう書かれていた。 俺が寝ている間に湊さんは帰ってきたらしい。ジョンの行方も分かり、少し安心した。 だがしかし。テレビを観て待ってろと言われても、観れない。昨日もこの大きなテレビはずっと気になってはいたが、肝心なリモコンが見当たらなかった。メインスイッチも本体が大きすぎてどのあたりにあるのかわからない。 点かないテレビをにらみつけるが、ぼやけた自分が映るだけだった。 顔を洗うためにバスルームに入ると、此処にも昨日はなかったものが置いてあった。 脱ぎ捨てられたシャツとパンツとズボン、使用済みのバスタオルだ。 意外だった。部屋はとても片付いていて生活感が全くなかった。しかし、脱ぎ捨てられた服と丸められたタオルが落ちているこの空間には生活感が漂っていた。 …湊さんは意外と雑なのかもしれない。部屋が綺麗に片付けられているのは琉と蓮華の「手伝い」のおかげなのか。 落ちているものをとりあえず拾い、軽くたたんでおしゃれな洗面台の横に置いて、顔を洗い部屋に戻った。 ソファに座り、つかないテレビをなんとなく見つめながら考える。 これからどうすればいいのか。 なんでこんなことになってしまったのか。 俺を襲った奴らはなんなのか。 此処にいる人間は信用できるんだろうか。 俺の荷物は本当に無いのだろうか。 ケータイどうしよう。 此処はなんなのだろう。 ワンナイトドリームスとはどういう会社なのか。 湊さんはあとどれくらいで戻るのだろう? ジョンをもふもふしたい。 今何時なんだろう。 頭の中に考えがぐるぐるとまわり、まとまらない。 まとまらない思考に疲れたのか、また頭がぼんやりとして瞼が重くなる。どうせ寝るならソファよりベッドのほうがいい。そう思い、立ち上がると廊下に続くドアが勢いよく開いた。 「ジョン!待て!」 開いたドアからは湊さんだと思われる慌てた声と、大きな白い犬…ジョンが飛び込んできた。 俺は、湊さんの制止を無視したジョンに押し倒され、尻餅をついた。 また俺の顔はべろんべろんに舐め回されたから、俺もジョンの身体をわしわし撫でる。 「アキラ!大丈夫か?ジョン降りなさい!」 駆け付けた湊さんに首輪を引っ張られて、ジョンはやっと俺から降りた。
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