「ねぇ、付き合おっか。」

 寝転んで桂を見あげる。どんな反応してくれるんだろ?なんて楽しみにしていたのに、つまんないの。こっちをちらりと見ただけで、またペットボトルの水に口を付けた。いつもどおりの無関心な目。
 呆れちゃってんのかな?でも、ひと言ぐらい何か言ってくれてもいいじゃんね。さみしいよ?

「本気?」
「ぅん?本気、かなぁ?」
「何で疑問系なんだよ。」

 やっとしゃべってくれた。
 半分になったペットボトルをテーブルにおいて私の横まで来てくれる。こーゆうとこ好きだなぁって思う。伝えたいことがあるとき、興味がないことでもちゃんとここまで来てくれる。
 それでほら、目はあわせないまんま頭なでるんだよね。

「ねぇ、付き合おうよ。」

 少し言葉を変えて同じことを問う。桂はなでるのをやめて、困ったみたいな顔をして視線を泳がしてる。ちゃんと考えてくれてんだね。
 私は相変わらず寝転んで、枕に半分顔をうずめた状態で片目だけの上目遣い。これってかわいいのかなー?睨み上げてるようにしか見えないかも。

「はっきり言い切れないってことは、本気じゃないってことか。」
「え~、そうなる?私、ふざけてるつもりもないよ。」

 考えて出てきた答えは私が望むようなもんじゃなかった。本気かどうかじゃなくて、付き合うかどうか答えてほしかったよ。

「どうせ本気じゃないんだろ?お前のことだし。」
「失礼だなぁ。たぶん本気だよー。」
「その“たぶん”ってのが怪しいんだよ。何か企んでんじゃねーの。」

 うわぁ、私そんな風に思われてんだ。信用ないねぇ。

「それに急過ぎんだよ。いきなりどうした?彼氏にフラれたとか?」
「彼氏とか、かなり前に分かれたし。…うん、でも確かに急だね。前フリとかほしかった?」
「前フリっつーか、もうちょっと気のある態度取ってもいんじゃね?それにムードとか考えろよ。」

 桂って意外とロマンチストだねぇ、なんていったら怒られるかな。言わないどこう。
 確かに今この格好で“本気で好きです、愛してます”ってのは似合わないもんね。
 私はパンツ一枚でベッドに寝転んで、ジーンズの前開けっ放しで横に座る半裸男を見上げてる。私が桂の立場だったら絶対本気にしないね。
 桂は私の性格わかってるから、なおさら信じないんだろうなぁ。冗談だって思ってるから慌てたり嫌がったりもしないんだよね。

「ねぇ、ケイ。付き合うのに本気かどうかって重要なこと?」
「はぁあ?」

 うっわぁ、何かすごいうわぁって顔された。そんな変なもの見る目で見ないでよ。私変な子みたいじゃん。

「本気じゃないってわかってる奴とわざわざ付き合うわけねーだろ。」
「そーかなぁ。でも、体だけの関係でも付き合ってるっていう人いるじゃん。あれは?」
「それはセフレだろ。付き合ってるって言う奴もいるけど、だったら今の俺らも付き合ってることになる。」

 ああ、確かにそだね。今の私たちも付き合ってることになるね。
 桂がまた頭をなでてくれる。それが気持ちよくて、手に擦り寄るように頭を少し動かした。
 
「でも、メイが言ってるのはセフレのことじゃないんだろ?」
「うん、違う…。セフレじゃなくて、えと・・・ん~?」

 違う。セックスするだけの相手になって欲しいんじゃないよ。私はただ・・・。
 ダメだなぁ、言葉が思いつかないよ。

「恋人とか?」
「え?」
「え、じゃねぇよ。恋人とかカレカノとかそうゆー意味じゃねぇの?付き合うってのはさ。」
「あ、ああそっか。ふつう、そう、だよね…。」

 なんかとても当たり前のことを言われちゃった。けど、なんだかしっくりこないんだよねぇ。何でだろ。付き合いたいって思ったのは本当なのに、何でうまく伝わんないんだろ。

「俺にどうしてほしいわけ?」
「付き合ってほしいんだよ。」

 ケイは目を細めて、めんどくさそうなため息をついた。この表情、苦手。ため息と一緒に“嫌い”という言葉が出てくるんじゃないかって想像しちゃう。次に何を言われるのか不安になる。

「そうじゃなくてな…。付き合って何がしたいんだよ。今と何か変えたいことがあるのか?」
 
 良かった。まだ話を聞いてくれる。
 変えたいこと。そうだよね、何か変えたいんだよね。私は今の状態に満足してないんだね。

「付き合ってなんて言うくらいだから何かして欲しくて言ったんじゃねぇの。」
「ん~たぶんそう。…なのかな?」

 自分でもよくわかんない。こんな話桂はよく付き合ってくれるね。本気だって信じてくれてんのかな。

「“好きだよ”って言われたいとか。」
「…。」
「それとも“愛してる”のほうがいいか?」
「違う…。」
「“私以外の女と寝ないで”とか?」
「違う!そんなんじゃない!」

 あぁ、声大きくなっちゃった。
桂がちょっと驚いてる。ゴメンね、伝わんなくていらいらしちゃってる。こどもみたいだね。

「レイが声上げるなんて珍しいな。」

 何でか笑いながら言われた。呆れられるか嫌われると思ったのに、なんだか嬉しそうに頭をポンポンなでられる。わけわかんない。

「俺のこと本気なんだ?」

 はい…?なんでいきなりそう思ったんだろ。
 好きって言ってほしいわけじゃない。束縛したいわけでもない。でも付き合って欲しい、なんて自分でもわかんないこと言ってるのに、桂は何で本気だなんて思うんだろ?

「レイ、付き合おうか。」
「え?なに、いきなり。」
「お前が付き合いたいって言ったんだろ。」
「そうだけど…本気じゃないとヤなんでしょ?」
「本気なんだろ?」

 どうしたんだろ。いきなり自信過剰な態度になっちゃった。私はまだどうして欲しいかなんて言ってない。本気だよ、とも言いきれてないのに。
 桂の腕に引き寄せられて体を起こした。斜め下から見上げていた顔が近くなった。
 珍しいなぁ、桂楽しそうな顔をしてる。

「レイが声を上げるくらい、本気なんだろ?」

 どうしよう、顔が、いきなり熱くなっちゃった。絶対真っ赤だよ。
 見られたくなくて桂の肩に顔をうずめたら、笑いをこらえてるみたいに肩が時々動いてるのが伝わってきた。悔しい。
 
「なぁ、俺にどうして欲しい?先に言っておくけど、俺は束縛されんの嫌いだから。」
「それは知ってる…。」

 やばい。声がふるえる。恥ずかしすぎるよ。さっきまでは全然平気だったのに、本気って認められた途端すごく緊張してきた。

「レイ、今からお前は俺のもの、俺はお前のもの。な。」
「え?束縛嫌いなんでしょ?」
「ああ、今までどおり俺はほかの女とセフレ続けるし、お前もほかの男と寝たってかまわない。」
「今と変わんないじゃん・・・。」
「でも、レイは特別な。」
「特別…。」

 頭から背中まで、桂の腕になでられてる。いつもと違う、あやされてるみたいでちょっと落ち着かない。桂が言ってることをちゃんと理解できてない気がする。
 今と変わんない関係なのに特別、なんてどうゆう意味だろ?
 考えてもわかんないから、桂の背中に腕を回してぎゅうっと抱きついた。




 

 

 

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