トン、トン、トン、と壁の向こうから足音が近づいてくる。
聞きなれたリズムがだんだん大きくなるのに反応して、俺は玄関まで急いで走っていく。
つるつるのフローリングは滑って進み辛いけれど、なんとかして近づいていてく。
ガチャガチャッと鍵を回す音がして、ドアがゆっくりと開かれる。

「ただいまぁ」

疲れて間延びした声とともにあいつが帰ってきた。
やっと玄関までたどり着いた俺は、あいつの足元まで近づいてやって“オカエリナサイ”をする。
あいつは俺を抱き上げて、キスをする。
そうして俺の身体を撫でながら部屋の奥まで入っていく。
俺は布団の上に下ろされて、あいつは着替えを始める。

「いい子にしてたか?」

着替えながらあいつは話しかけてくる。
あいつがモゴモゴと何を言っているのかよくわからないけれど、俺は適当に相槌を打ってやる。
オカエリナサイが済んだら俺の仕事はもう終わり。
ぐしゃぐしゃにされた毛並みを直しつつあいつが着替えるのを待つ。
あとはこいつがご飯を用意して、俺の気が向いたときに食べるんだ。
そのために俺は今まで寝ないで待っていた

この家には何もない。
いや、本当に何もないわけではないんだけれど。
ちかちかした光と音が出るあったかい箱とか、ふかふかしたでかい寝床とか、あいつが脱いだ服だとか。
結構散らかっていて、いろんなものがあるのだけれど。
なんというか、こいつが帰ってくるまで、俺は暇なんだ。
本当はこいつがご飯を隠している場所なんて知っているし、勝手に出して食べることだってできる。
あいつが居なくても一人で遊べるし、一人で寝るのだって嫌いじゃない。
あいつが返ってくるのを待って、帰ってくるたびにわざわざ“オカエリナサイ”してやってるのは、ただのサービスだ。

あいつは俺のこと大好きだからな。
俺もあいつのことはそれなりに気に入ってんだ。
だから多少はあいつが喜ぶことをしてやってもいいかなと思って…

…。


べ、別に“おるすばん”がさみしいわけじゃないんだからな!



早く着替えてネコじゃらしもってこい!!





byにゃんこ






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